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症例別の考え方 ・ 2026-08-30 更新

スポーツによる股関節・鼠径部痛 — 競技復帰に必要な評価と段階的運動療法

新人PTと先輩PTの対話形式で、スポーツ選手に多い鼠径部痛(グロインペイン)の評価の進め方と、競技復帰に向けた段階的な運動療法の考え方を整理しました。

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スポーツ選手の鼠径部痛を担当していて、こんな経験はありませんか。

  • キック動作で鼠径部が痛いと言われたが、内転筋なのか腸腰筋なのか絞り込めない
  • 「グロインペイン」という言葉は知っていても、具体的に何をどの順番で評価すればいいか迷う
  • 痛みが引いたので練習復帰させたら、すぐに再発してしまった
  • 競技復帰までの段階的な負荷の上げ方がわからず、選手や指導者にうまく説明できない

この記事では、新人PT・水野あかりと先輩PT・佐伯直人の対話を通じて、スポーツに伴う鼠径部痛の評価の進め方と、競技復帰に向けた段階的運動療法の考え方を整理します。

新人PT・水野あかり

先輩、大学のサッカー部の選手で「キックすると鼠径部が痛い」という方を担当することになったんですが、鼠径部痛って原因が多くて、どこから手をつければいいか迷います。

先輩PT・佐伯直人

サッカー選手の鼠径部痛はよくある相談だね。「グロインペイン」と一括りにされやすいけど、原因となる組織はいくつかあるから、まずそこを整理しよう。

鼠径部痛の原因は一つじゃない

先輩PT・佐伯直人

スポーツに伴う鼠径部痛で多いのは、内転筋群の過負荷による損傷だね。キック動作やサイドステップで強い力がかかる部位だから。

新人PT・水野あかり

内転筋が一番多いんですか?

先輩PT・佐伯直人

頻度としてはそうだけど、それだけを見ていると大事なものを見落とす可能性がある。腸腰筋の過負荷、股関節の関節内の問題、恥骨結合部の炎症、それから鼠径部周辺の神経の問題も候補に入る。

新人PT・水野あかり

そんなにあるんですね。全部を一度に調べるのは大変そうです。

先輩PT・佐伯直人

だからこそ、問診と基本的な確認の順番が大事になるんだ。

まず確認すべきこと — レッドフラッグと発症の経緯

先輩PT・佐伯直人

最初に確認するのは、いつも通りレッドフラッグだよ。安静時にも持続する痛み、原因不明の体重減少、発熱、夜間痛で目が覚めるといった症状がないか。

新人PT・水野あかり

スポーツ選手だと「運動で痛い」が前面に出るので、つい局所の評価から入りたくなります。

先輩PT・佐伯直人

気持ちはわかるけど、順番を守ることが大事。レッドフラッグを確認したうえで、次に聞くべきなのは「発症の経緯」だね。

新人PT・水野あかり

急に痛くなったのか、徐々にだったのか、ですか?

先輩PT・佐伯直人

それに加えて、練習量や強度に最近変化がなかったかも重要。鼠径部痛に限らないけど、スポーツ障害の多くは「負荷の急激な変化」がきっかけになっている。オフ明けに急に練習を再開した、試合が続いて休養が取れなかった、というタイミングで起きやすいんだ。

CLINICAL THINKER

この記事のような整理を、クリニカルシンカーなら自分の症例でできます

クリニカルシンカーは、理学療法士・作業療法士のための臨床推論支援AIです。 症状や所見を入れていくと、鑑別の候補と「次に確認すると鑑別が進む評価」が並びます。 答えを出すAIではなく、評価の優先順位を整理するためのAIです。実際の画面はこちらです。

クリニカルシンカーの鑑別候補の画面。支持された所見とまだ足りない所見が候補ごとに並ぶ
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クリニカルシンカーの次に確認する評価の画面。他動外旋ROMや夜間痛などを選ぶと候補が更新される
次に確認すると鑑別が進む評価を提示。結果を選ぶと候補が更新される

※ 画面はアプリの実際の出力の一部で、肩の架空症例のデモです(現在、この機能は肩の症例に対応しています)。 表示される鑑別候補は未監修の試作データによるもので、診断や治療方針の決定を代替するものではありません。

架空症例で見る、鼠径部痛の評価の進め方

架空の症例で考えてみます(実在のケースではありません)。20代・男性、大学サッカー部。3週間前からキック動作時に右鼠径部に鋭い痛みが出現。走行やサイドステップでも痛む。2ヶ月前にチーム練習が再開し、練習量が急増した。安静時痛・しびれ・全身症状はない。

新人PT・水野あかり

内転筋の問題が一番考えやすいですか?

先輩PT・佐伯直人

キック・サイドステップで痛む、練習量の急増がある、安静時痛がない。これらを合わせると、内転筋群の過負荷による損傷は有力な候補だね。

新人PT・水野あかり

それだけで決めてしまっていいんでしょうか?

先輩PT・佐伯直人

いい質問。ここで「内転筋だろう」と決め打ちするのではなく、他の可能性も並べて、それぞれ確認が取れているかどうかを整理することが大事だよ。

評価仮説を並べてみる

先輩PT・佐伯直人

この症例で考えられる可能性を挙げてみよう。

新人PT・水野あかり

内転筋の過負荷、あとは…腸腰筋ですか?

先輩PT・佐伯直人

そう。キック動作は股関節屈曲も伴うから、腸腰筋の過負荷も候補に入る。鼠径部の深い位置に痛みがある場合は特に。ただし、痛みの正確な部位や深さはまだ確認できていない。

新人PT・水野あかり

他にもありますか?

先輩PT・佐伯直人

股関節の関節内の問題、たとえば関節唇の損傷。キック動作で股関節が大きく動く際に、関節内で組織が挟まって痛む可能性がある。ただし、股関節の可動域制限やひっかかり感があるかどうかはまだ確認していない。

新人PT・水野あかり

つまり、有力な候補はあるけど、他の候補を否定できる材料がまだ揃っていない、ということですか?

先輩PT・佐伯直人

その通り。「確認していないこと」を「問題ない」と同じに扱わないことが大事なんだ。

何をどの順番で確認するか

先輩PT・佐伯直人

まず内転筋群の抵抗下テスト。仰臥位で膝を軽く曲げた状態で、内転方向に力を入れてもらう。痛みが出るか、健側と比べて筋力が落ちているかを確認する。

新人PT・水野あかり

いわゆるアダクタースクイーズテストですね。

先輩PT・佐伯直人

そう。次に、股関節屈曲に対する抵抗テストで腸腰筋を確認する。鼠径部の上の方に痛みが出れば、腸腰筋の関与が考えられる。

新人PT・水野あかり

この2つで、内転筋か腸腰筋かをある程度絞れるんですか?

先輩PT・佐伯直人

絞り込みの手がかりにはなるね。さらに、股関節の可動域を健側と比較して、制限や終末域での痛みがないかも確認しておく。可動域に問題があれば、関節内の問題も視野に入れる必要がある。

新人PT・水野あかり

評価の順番が見えてきました。

先輩PT・佐伯直人

そして忘れてはいけないのが、中殿筋の筋力。キック動作中の骨盤の安定性に関わるから、ここが弱いと鼠径部に代償的な負荷がかかりやすい。

クリニカルシンカーではどう整理するか

新人PT・水野あかり

鼠径部痛って候補がたくさんあって、確認すべきことも多いですよね。クリニカルシンカーだと、この整理はどうなるんですか?

先輩PT・佐伯直人

症例の情報を入力すると、考えられる候補を幅広く挙げたうえで、それぞれについて「この情報があるから有力」「この情報がまだ確認できていない」という整理をしてくれる。

新人PT・水野あかり

さっき先輩がやってくれたように、「確認していないこと」と「否定できたこと」を区別してくれるんですね。

先輩PT・佐伯直人

そう。さらに、どの評価を優先すべきかの方針も一緒に考えられる。鼠径部痛のように候補が多い症例では、頭の中だけで整理しようとすると抜け漏れが起きやすいから、こうした整理を見える化できるのは助けになるよ。
クリニカルシンカーは、理学療法士・作業療法士のための臨床推論支援AIです。診断を代替するのではなく、問診・仮説・評価方針・鑑別・リスク整理を支援し、臨床での思考過程を見える化します。

競技復帰に向けた段階的運動療法の考え方

競技復帰に向けた3つのステージ痛みの反応を見ながら、順に進めるステージ1痛みのコントロールと基礎的な負荷ステージ2動的な運動への移行ステージ3競技動作の段階的導入痛みが出ないことを確認してから次の段階へ進める
競技復帰に向けた3つのステージ

新人PT・水野あかり

評価で原因がある程度絞れたとして、競技復帰までどう進めればいいですか?

先輩PT・佐伯直人

大事なのは「痛みが消えたら即復帰」ではないということ。段階を踏んで負荷を上げていく必要がある。

ステージ1:痛みのコントロールと基礎的な負荷

先輩PT・佐伯直人

最初の段階では、痛みが許容できる範囲で患部に適度な負荷をかけることを目指す。完全な安静ではなく、等尺性収縮(力は入れるが関節は動かさない)から始めることが多い。

新人PT・水野あかり

痛みがあっても運動していいんですか?

先輩PT・佐伯直人

痛みの許容範囲の中で、という条件つきだけどね。腱や筋は、適度な負荷がかかることで回復が促される。安静にしすぎると、復帰時にまた急激な負荷変化を起こしやすくなる。

ステージ2:動的な運動への移行

先輩PT・佐伯直人

痛みが落ち着いてきたら、関節を動かしながらの筋力トレーニングに移行する。内転筋なら、軽い抵抗での内転運動から始めて、徐々に抵抗を上げていく。

新人PT・水野あかり

この段階で走っても大丈夫ですか?

先輩PT・佐伯直人

直線の軽いジョギングから始めて、痛みが出ないことを確認してから距離やペースを上げる。サイドステップや方向転換はまだ早い場合が多いね。

ステージ3:競技動作の段階的導入

先輩PT・佐伯直人

ここからが選手にとって一番重要で、かつ再発しやすい段階。まずはゆっくりしたキック動作から始めて、痛みなくできることを確認してから強度を上げていく。

新人PT・水野あかり

サイドステップや急な方向転換は最後ですか?

先輩PT・佐伯直人

そう。加速・減速・方向転換を含む動作は負荷が高いから、最終段階に位置づける。練習への部分参加から始めて、徐々にフル参加に移行するのが基本だね。

再発を防ぐために

先輩PT・佐伯直人

もう一つ大事なのは、「なぜ鼠径部に過負荷がかかったのか」という原因への対応。中殿筋の筋力不足で骨盤が不安定になっていたなら、中殿筋のトレーニングを並行して行う。股関節の可動域制限があるなら、可動域の改善も必要になる。

新人PT・水野あかり

痛い場所だけでなく、その周囲の問題にも目を向けるんですね。

先輩PT・佐伯直人

そう。再発予防には、局所の回復だけでなく、動作パターン全体を見直す視点が欠かせないよ。

まとめ

スポーツに伴う鼠径部痛は、内転筋群の過負荷が多いものの、腸腰筋・股関節の関節内病変・恥骨結合部の炎症など複数の原因が考えられます。「グロインペイン」と一括りにせず、問診で発症経緯と負荷の変化を確認したうえで、抵抗下テストや可動域測定で候補を絞り込むことが評価の基本です。

競技復帰に向けては、「痛みが消えたら即復帰」ではなく、等尺性収縮→動的トレーニング→競技動作の段階的導入という流れで負荷を上げていきます。再発予防のためには、痛む部位だけでなく、骨盤や体幹の安定性など動作パターン全体への対応も重要です。

よくある質問

Q. 鼠径部痛がある選手は、痛みが完全になくなるまで練習を休むべきですか?

A. 完全に安静にするのではなく、痛みが許容できる範囲の負荷で運動療法を行いながら、段階的に強度を上げていく考え方が一般的です。安静にしすぎると、練習再開時にまた急激な負荷変化を起こしやすくなります。ただしレッドフラッグに該当する症状がある場合は、まず医師への相談が優先です。

Q. 内転筋の問題だと思って介入しているのに改善しない場合、何を見直すべきですか?

A. まず、内転筋以外の候補(腸腰筋の過負荷、股関節の関節内病変、恥骨結合部の炎症など)がきちんと確認・除外できているかを振り返ります。また、中殿筋の筋力不足や股関節の可動域制限など、鼠径部に過負荷がかかる原因が残っていないかも確認しましょう。

参考

  • Doha agreement meeting on terminology and definitions in groin pain in athletes(スポーツ選手の鼠径部痛の分類・用語を国際的に整理した合意声明として広く参照されている)
  • スポーツ選手の鼠径部痛に対する段階的負荷管理の考え方(スポーツ医学・理学療法領域で広く共有されている段階的復帰の枠組みをもとに構成)

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