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評価の考え方2026-08-30 更新

股関節痛に対する運動療法の処方 — 筋力・可動域・荷重能力を改善するプログラム設計

新人PTと先輩PTの対話形式で、股関節痛のある方への運動療法の処方の考え方を、筋力強化・可動域改善・荷重トレーニングの3つの柱で整理しました。

股関節痛のある方への運動療法で、こんな悩みはありませんか。

  • 「筋トレをしてください」と言われたが、具体的に何をどのくらいやればいいかわからない
  • 中殿筋トレーニングはやっているが、他に何を組み合わせるべきか迷う
  • 可動域訓練と筋力トレーニングの優先順位がつけられない
  • 運動中の痛みをどこまで許容していいか判断できない

この記事では、新人PT・水野あかりと先輩PT・佐伯直人の対話を通じて、股関節痛のある方への運動療法プログラムの設計の考え方を整理します。

新人PT・水野あかり

先輩、50代の女性で変形性股関節症の方を担当しています。整形外科で「筋力トレーニングをしてください」と言われて来られたんですが、具体的にどう組み立てればいいかわからなくて。

先輩PT・佐伯直人

「筋トレしてください」はよく聞く指示だね。でも、漫然と中殿筋トレーニングだけを続けても、思ったほど効果が出ないことがある。その方の評価結果に基づいて、何をどの順番で、どのくらいの負荷でやるかを考えることが大事なんだ。

運動療法プログラムの3つの柱

運動療法プログラムの3つの柱筋力強化外転筋だけに偏らない可動域改善無理に広げようとしない荷重・歩行短時間から段階的に3つとも初回から全力でやらない。ボトルネックから優先順位をつける
運動療法プログラムの3つの柱

先輩PT・佐伯直人

股関節痛に対する運動療法は、大きく3つの柱で考えるとわかりやすい。筋力強化、可動域改善、そして荷重トレーニングだ。

新人PT・水野あかり

3つとも全部やるんですか?

先輩PT・佐伯直人

すべてを初回から全力でやる必要はないよ。評価結果に基づいて、今この方にとって一番のボトルネックになっているのは何か、そこから優先順位をつける。

架空症例で考える、運動療法の組み立て方

架空の症例で考えてみます(実在のケースではありません)。50代・女性、右変形性股関節症(初期〜進行期)。3ヶ月前から右鼠径部から太もも前面にかけて鈍い痛み。30分以上の歩行で痛みが増す。長時間座った後の立ち上がりで痛む。医師から運動制限はなし。以前はウォーキングが趣味だったが、痛みが出てからは控えている。

新人PT・水野あかり

まず何を評価すればいいですか?

先輩PT・佐伯直人

まず股関節の可動域を確認する。特に屈曲・外転・内旋の左右差。次に筋力。特に外転筋(中殿筋)と屈曲筋(腸腰筋)を中心に、健側との比較をしておく。

新人PT・水野あかり

トレンデレンブルグ徴候も確認しますか?

先輩PT・佐伯直人

そう。片脚立位で骨盤が傾くかどうか。これは中殿筋の機能的な評価として重要だよ。

筋力強化 — どこから始めるか

先輩PT・佐伯直人

筋力強化で最も重要なのは、やはり股関節外転筋群。歩行中の骨盤の安定に直結するからね。

新人PT・水野あかり

中殿筋のトレーニングですよね。側臥位での股関節外転が定番ですが、それだけでいいですか?

先輩PT・佐伯直人

側臥位外転は基本だけど、それだけだと実際の歩行中に必要な荷重下での筋力にはつながりにくい。段階を踏んで負荷を上げていく考え方が大事だよ。

新人PT・水野あかり

具体的にはどんな段階ですか?

先輩PT・佐伯直人

まず非荷重での等尺性収縮。側臥位で壁に足をつけて外転方向に押すような運動から始める。痛みの誘発が少なく、関節への負荷も低い。

新人PT・水野あかり

次はどうしますか?

先輩PT・佐伯直人

等尺性で痛みなくできるようになったら、側臥位での股関節外転運動(等張性)に移行。さらにその先は、立位での片脚バランスやサイドステップなど、荷重下でのトレーニングに進む。

新人PT・水野あかり

いきなり立位でのトレーニングに行くのではなく、段階的に負荷を上げるんですね。

先輩PT・佐伯直人

そう。特に痛みが出ている時期には、急に負荷を上げると痛みが悪化してモチベーションも下がってしまう。小さな成功体験を積み重ねていく設計が重要だよ。

外転筋だけでは不十分

先輩PT・佐伯直人

もう一つ大事なのは、外転筋だけに偏らないこと。

新人PT・水野あかり

他にどの筋を鍛えればいいですか?

先輩PT・佐伯直人

股関節伸展筋(大殿筋)と外旋筋群。歩行の立脚期には、外転だけでなく伸展と外旋の安定性も必要になる。大殿筋が弱いと、階段昇降や立ち上がりの動作で股関節前面に過剰な負荷がかかりやすい。

新人PT・水野あかり

大殿筋のトレーニングは何をしますか?

先輩PT・佐伯直人

背臥位でのブリッジ運動(お尻上げ)が基本。痛みが許容範囲であれば、片脚ブリッジに進める。立位でのスクワットやステップ運動は、可動域と痛みの状態を見ながら導入する。

可動域改善 — 無理に広げようとしない

先輩PT・佐伯直人

次に可動域の話。変形性股関節症では、特に内旋と外転の可動域が早い段階から制限されやすい。

新人PT・水野あかり

ストレッチで改善するものですか?

先輩PT・佐伯直人

ここは注意が必要。変形性股関節症の可動域制限は、筋の短縮だけでなく、関節包の線維化や骨の形態変化が原因のことも多い。筋の短縮による制限は改善の可能性があるけど、骨の変形による制限を無理に広げようとすると痛みが悪化する。

新人PT・水野あかり

じゃあ、どう判断するんですか?

先輩PT・佐伯直人

終末感がヒントになる。動かしていって最後のところで「弾力的な抵抗」が感じられるなら、筋や関節包の柔軟性改善の余地がある。「硬い壁にぶつかるような抵抗」なら、骨の制限の可能性が高く、無理に押さない方がいい。

新人PT・水野あかり

なるほど。終末感で方針を変えるんですね。

先輩PT・佐伯直人

可動域改善に取り組む場合は、穏やかなストレッチと自動運動を組み合わせる。痛みが出ない範囲で、ゆっくりと関節を動かす。痛みが強い角度を無理に超えようとしないことが原則だよ。

荷重トレーニング — 歩行能力の改善

先輩PT・佐伯直人

3つ目の柱が荷重トレーニング。実際の歩行や日常動作で必要な荷重に耐えられる能力を高めることが目的だね。

新人PT・水野あかり

筋力トレーニングとは別なんですか?

先輩PT・佐伯直人

別というより、筋力トレーニングの延長線上にある。非荷重での筋力は十分でも、実際に体重を支えながら動くとなると不十分なことがある。

新人PT・水野あかり

具体的にはどんなトレーニングですか?

先輩PT・佐伯直人

まず片脚立位保持。これは中殿筋の荷重下での機能を確認しつつ、バランス能力も向上させる。次にステップ運動。台に足を乗せてゆっくり昇り降りする。

新人PT・水野あかり

この方はウォーキングをしたいと言っていたので、歩行に近い負荷のトレーニングが大事ですね。

先輩PT・佐伯直人

そう。最終的な目標は「30分以上歩いても痛みが許容範囲に収まる」こと。筋力と可動域が改善してきたら、ウォーキングの再開も段階的に進める。最初は10〜15分から始めて、週単位で少しずつ距離を伸ばしていくのが安全だよ。

運動中の痛みをどう扱うか

先輩PT・佐伯直人

ここで一つ、多くの新人が迷うポイントを話しておこう。「運動中の痛みはどこまで許容していいか」という問題だ。

新人PT・水野あかり

まさにそこが一番不安なところです。

先輩PT・佐伯直人

一般的な目安としては、運動中に感じる痛みが「許容できる程度」であり、運動後に痛みが翌日まで残らないのであれば、その負荷は適切と考えてよい。

新人PT・水野あかり

翌日まで残ったら?

先輩PT・佐伯直人

負荷が強すぎた可能性がある。回数を減らすか、抵抗を下げるか、動きの範囲を小さくするかの調整が必要。大事なのは、「痛みが出たから中止」ではなく、「痛みの出方に応じて負荷を調整する」という考え方だね。

新人PT・水野あかり

白か黒かではなく、グレーゾーンのコントロールが大事なんですね。

先輩PT・佐伯直人

そう。そしてこの判断は一人で抱え込まず、経過を記録しておくことが大切。「先週のブリッジは10回で翌日痛みが出た。今週は8回にした」という記録があれば、負荷の調整根拠が明確になる。

クリニカルシンカーではどう整理するか

新人PT・水野あかり

筋力・可動域・荷重の3つの柱を、それぞれの評価結果に基づいて優先順位をつけるのって、情報量が多くて大変ですよね。

先輩PT・佐伯直人

そう。クリニカルシンカーでは、症例の情報を入力すると、考えられる候補とともに推奨される評価項目が整理される。可動域測定、筋力検査、トレンデレンブルグ徴候、トーマス徴候といった項目が出てくるから、評価の優先順位を立てやすい。

新人PT・水野あかり

評価結果を整理してから運動療法の方針を考える、という流れがスムーズにできそうですね。

先輩PT・佐伯直人

そう。運動療法の処方は、評価の質に依存する。「何をやるか」の前に「なぜそれをやるか」を明確にする。その「なぜ」の部分を整理する助けになるんだ。
クリニカルシンカーは、理学療法士・作業療法士のための臨床推論支援AIです。診断を代替するのではなく、問診・仮説・評価方針・鑑別・リスク整理を支援し、臨床での思考過程を見える化します。

まとめ

股関節痛に対する運動療法は、筋力強化(外転筋だけでなく伸展筋・外旋筋群も)、可動域改善(終末感で方針を判断し、無理に広げない)、荷重トレーニング(非荷重から段階的に実動作に近づける)の3つの柱で設計します。

運動中の痛みは「許容範囲の痛みで、翌日に持ち越さない」を目安に負荷を調整しましょう。いきなり高負荷の運動を課すのではなく、小さな成功体験を積み重ねる設計が、長期的な継続と改善につながります。

よくある質問

Q. 変形性股関節症の方に、スクワットやランジをさせても大丈夫ですか?

A. 可動域と痛みの状態によります。浅いスクワット(膝を軽く曲げる程度)から始めて、痛みが許容範囲であれば段階的に深さを増やしていくことが一般的です。ランジは股関節の屈曲角度が大きくなるため、可動域に制限がある段階では避けた方がよいことが多いです。いずれも痛みが翌日まで残る場合は負荷を下げる調整が必要です。

Q. 運動療法の効果が出るまでどのくらいかかりますか?

A. 個人差がありますが、筋力の改善効果が自覚できるようになるまで6〜8週間程度かかるのが一般的です。ただし、痛みの軽減は筋力の改善よりも早く感じられることが多く、2〜4週間で「少し楽になった」と感じる方もいます。大切なのは、短期的な変化だけでなく、3ヶ月以上の継続で確認することです。

参考

  • Exercise therapy for hip osteoarthritis: systematic review and meta-analysis変形性股関節症に対する運動療法の有効性に関するメタアナリシスとして広く参照されている
  • 股関節周囲筋の段階的筋力強化プログラムの考え方非荷重から荷重下への段階的な筋力トレーニングの設計指針を参照

このような症例の整理には、理学療法士・作業療法士向けに設計された臨床推論支援AI「クリニカルシンカー」も選択肢になります。 問診・仮説・評価方針・鑑別・リスク整理を、症例ごとに段階的に確認できます。

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