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症例別の考え方2026-08-30 更新

股関節痛の動作分析と日常生活指導 — 歩行・立ち上がり・階段・靴下動作から考える介入戦略

新人PTと先輩PTの対話形式で、股関節痛のある方の歩行・立ち上がり・階段昇降・靴下動作を観察するポイントと、日常生活指導の考え方を整理しました。

股関節に痛みのある方を担当していて、こんな経験はありませんか。

  • 歩行を観察しているが、どこに注目すればいいかわからない
  • 関節可動域や筋力は測ったが、実際の動作でどこに問題があるかを説明できない
  • 階段や靴下動作で痛いと言われるが、なぜその動作で痛むのか整理できていない
  • 日常生活の指導をしたいが、「無理しないでください」以上の具体的な助言ができない

この記事では、新人PT・水野あかりと先輩PT・佐伯直人の対話を通じて、股関節痛のある方の動作分析のポイントと、日常生活指導の考え方を整理します。

新人PT・水野あかり

先輩、70代の女性で変形性股関節症の方を担当しています。歩行や階段で右の鼠径部と大腿外側が痛むんですが、可動域と筋力を測っただけで、動作の何が問題なのかうまく整理できていません。

先輩PT・佐伯直人

それは多くの新人が通る課題だね。可動域や筋力は「部品の性能」を見ているけど、動作分析は「部品がどう組み合わさって動いているか」を見る作業。両方あって初めて、的確な介入につながるんだ。

なぜ動作分析が必要なのか

先輩PT・佐伯直人

たとえば、この方の股関節外転筋力がMMT4だったとする。それだけだと「少し弱い」としか言えない。でも、歩行中に骨盤が大きく傾いていたら、その筋力では歩行中の荷重に対応しきれていないことがわかる。

新人PT・水野あかり

つまり、安静時の筋力と、実際の動作中に求められる筋力は違うということですか?

先輩PT・佐伯直人

その通り。可動域も同じだよ。背臥位での股関節屈曲が90度あっても、実際に靴下を履こうとすると体幹の柔軟性や骨盤の傾きも関わるから、動作としては足りないことがある。

架空症例で見る、動作分析の進め方

動作分析で観察する4場面「測った値」に加えて「実際の動き」でも確認する歩行立脚期の骨盤の落ち込み立ち上がり体幹の使い方・左右差階段昇降昇りと降りで負担が違う靴下動作屈曲+回旋の複合困っている動作から逆算して、評価と指導をつなげる
動作分析で観察する4場面

架空の症例で考えてみます(実在のケースではありません)。70代・女性、右変形性股関節症(進行期)。歩行時に右鼠径部と大腿外側に痛み。階段昇降や靴下を履く動作でも痛みが強くなった。歩き始めが一番痛く、長く歩くとまた痛みが増す。趣味の散歩を続けたい。

新人PT・水野あかり

まず何から見ればいいですか?

先輩PT・佐伯直人

動作分析に入る前に、基本的な評価から確認しよう。まず股関節の可動域。特に屈曲・外転・外旋の制限がどの程度かを左右で比較する。

新人PT・水野あかり

進行期だと、かなり制限がありそうですね。

先輩PT・佐伯直人

そう。次に筋力。特に股関節外転と外旋は必ず確認する。立位や歩行中の骨盤の安定性に直結するからね。

歩行の観察ポイント

先輩PT・佐伯直人

歩行を見るとき、まず注目するのは立脚期の骨盤の動き。片脚で体重を支えている側の中殿筋が弱いと、反対側の骨盤が下がる。

新人PT・水野あかり

トレンデレンブルグ徴候ですね。

先輩PT・佐伯直人

そう。ただし、痛みがある場合は筋力が十分あっても痛みを避けるために骨盤が傾くことがある。だから「筋力が弱いから傾く」のか「痛くて力を入れられないから傾く」のかは区別が必要だよ。

新人PT・水野あかり

どうやって区別するんですか?

先輩PT・佐伯直人

一つの手がかりは、患側に体重をかける時間。痛みが原因の場合、立脚期が短くなって、すぐに反対の足に体重を移そうとする。歩幅が左右で違ったり、テンポが不均等になったりする。

新人PT・水野あかり

なるほど。骨盤だけでなく、歩行のリズムやテンポも見るんですね。

先輩PT・佐伯直人

それと、体幹の側方傾斜。痛い側に体幹を傾けて荷重を減らす「デュシャンヌ歩行」のパターンが出ていないかも確認する。これは無意識の痛み回避戦略で、本人が気づいていないことも多い。

立ち上がり動作の観察ポイント

先輩PT・佐伯直人

次は立ち上がり。椅子から立ち上がるときの動作を見てみよう。

新人PT・水野あかり

立ち上がりのどこを見ればいいですか?

先輩PT・佐伯直人

まず、体重のかけ方。左右均等にかけているか、それとも健側に偏っているか。痛い側の股関節に体重をかけるのが怖いと言っていたよね。

新人PT・水野あかり

はい。「右脚に体重をかけるのが怖い」と。

先輩PT・佐伯直人

その場合、立ち上がりで体幹を健側に傾けたり、両手で座面や肘掛けを強く押したりする代償が出る。これは痛みの回避行動であると同時に、長期的には健側への過負荷につながる問題でもある。

新人PT・水野あかり

健側にも影響が出るんですか?

先輩PT・佐伯直人

そう。患側をかばって健側に体重を集中させ続けると、健側の膝や腰に負担がかかりやすくなる。だから「痛みを避ける動き方」が必ずしも最善とは限らないんだ。

階段昇降の観察ポイント

先輩PT・佐伯直人

階段では「降りるときが特に痛い」と言っていたよね。これは重要な手がかりだよ。

新人PT・水野あかり

なぜ降りるときの方が痛いんですか?

先輩PT・佐伯直人

昇るときは股関節屈曲筋と伸展筋が求心性に(筋肉が縮みながら)働く。降りるときは遠心性に(筋肉が伸びながら)働く。遠心性収縮のほうが関節への負荷が大きいんだ。

新人PT・水野あかり

そうなんですか。

先輩PT・佐伯直人

特に階段を降りるときは、体重を支える側の股関節に屈曲方向の大きな負荷がかかる。股関節の屈曲可動域に制限があると、その制限ぎりぎりの角度で痛みが出やすい。

新人PT・水野あかり

じゃあ、階段で痛いときは可動域の問題と筋力の問題の両方を考える必要があるんですね。

先輩PT・佐伯直人

加えて、手すりの使い方も見ておく。手すりに体重の何割くらいを預けているか。手すりがないと降りられないのか、あると楽になる程度なのか。これによって介入の方向性が変わるからね。

靴下動作の観察ポイント

先輩PT・佐伯直人

靴下を履く動作は、股関節の複合的な可動域が必要になる。屈曲に加えて、内転と内旋の組み合わせが求められる。

新人PT・水野あかり

どんな動作パターンが問題になりますか?

先輩PT・佐伯直人

多くの場合、股関節屈曲の制限を補うために体幹を大きく前屈させる。でも、体幹の柔軟性にも限界があるから、最終的に「足に手が届かない」という状況になりやすい。

新人PT・水野あかり

その場合、どう指導しますか?

先輩PT・佐伯直人

いくつかの工夫がある。足を反対側の膝の上に組んで、股関節外旋位で行うと、屈曲の要求が減る。長い柄のソックスエイドを使う方法もある。大事なのは、「できない動作を無理にやらせる」のではなく、「同じ目的を達成できる別の方法」を一緒に探すことだよ。

クリニカルシンカーではどう整理するか

新人PT・水野あかり

動作分析って、見るべきポイントが多くて情報量が多いですよね。クリニカルシンカーだと、この整理はどうなるんですか?

先輩PT・佐伯直人

症例の情報を入力すると、考えられる候補を挙げたうえで、それぞれに対して推奨される評価項目を整理してくれる。たとえば今回の症例なら、関節可動域測定、筋力検査、トレンデレンブルグ徴候、トーマス徴候、階段昇降動作分析といった項目が出てくる。

新人PT・水野あかり

動作分析の前に「何を見るべきか」の整理ができるんですね。

先輩PT・佐伯直人

そう。動作分析は闇雲に観察しても情報量に溺れるだけ。事前に「この仮説を確認するためにこの動作のこの局面を見る」という視点を持っておくと、観察の質が全然違う。
クリニカルシンカーは、理学療法士・作業療法士のための臨床推論支援AIです。診断を代替するのではなく、問診・仮説・評価方針・鑑別・リスク整理を支援し、臨床での思考過程を見える化します。

日常生活指導のポイント

新人PT・水野あかり

動作分析の結果をもとに、日常生活でどんな指導をすればいいですか?

先輩PT・佐伯直人

大事なのは「何を禁止するか」ではなく「どうすれば痛みを減らしながら活動を維持できるか」という視点だね。

歩行に関する指導

先輩PT・佐伯直人

この方は散歩を続けたいと言っている。まず確認すべきは、杖の使用。痛い側と反対の手に杖を持つだけで、患側の股関節への荷重が大幅に減る。

新人PT・水野あかり

杖を使うことに抵抗がある方もいますよね。

先輩PT・佐伯直人

そこは丁寧に説明が必要。「杖を使うことは弱さではなく、散歩を続けるための道具」という伝え方が効果的なことが多い。「杖なしで痛みを我慢して歩く」よりも「杖を使って長く楽に歩く」ほうが、股関節にとってもずっといいからね。

新人PT・水野あかり

歩行距離についてはどう指導しますか?

先輩PT・佐伯直人

一度に長く歩くのではなく、途中で休憩を入れる「分割歩行」を勧めることが多い。たとえば「15分歩いたら5分ベンチに座る」というパターンにすると、合計の歩行距離は確保しつつ、痛みの蓄積を抑えられる。

階段に関する指導

先輩PT・佐伯直人

階段は、降りるときの基本原則として「痛い脚から降ろす」。昇るときは「痛くない脚から昇る」。

新人PT・水野あかり

「よい脚で天国へ、悪い脚で地獄へ」ってやつですね。

先輩PT・佐伯直人

そう。加えて、手すりの使い方を具体的に指導する。「手すりに体重を預けていいですよ」と一言伝えるだけで、階段への恐怖感が減ることがある。

日常動作全般の原則

先輩PT・佐伯直人

もう一つ大事な原則がある。「痛みが出る動作を完全に避ける」のではなく、「痛みが許容範囲の方法で同じ目的を達成する」ということ。

新人PT・水野あかり

具体的にはどういうことですか?

先輩PT・佐伯直人

たとえば、低い椅子から立ち上がるのが痛いなら、座面の高さを上げる。床の物を拾うのが痛いなら、マジックハンドを使う。横向き寝で痛いなら、膝の間にクッションを挟む。痛む動作ごとに、負荷を減らす工夫を一つずつ提案していくんだ。

新人PT・水野あかり

「無理しないでください」ではなく、具体的な解決策を一緒に考えるんですね。

先輩PT・佐伯直人

そう。「できないことを数えるより、できる方法を一緒に探す」。これが日常生活指導の基本姿勢だよ。

まとめ

股関節痛のある方の動作分析では、歩行中の骨盤の傾き・立脚期の左右差(歩行)、体重のかけ方と代償動作(立ち上がり)、下降時の痛みと手すりの使い方(階段)、可動域制限への代償パターン(靴下動作)を中心に観察します。

日常生活指導では、「禁止」ではなく「同じ目的を達成する別の方法」を提案することが大切です。杖の活用、分割歩行、座面の高さ調整など、痛みを減らしながら活動を維持できる具体的な工夫を、動作分析の結果に基づいて一つずつ提案しましょう。

よくある質問

Q. 股関節痛がある方に歩行を勧めてもいいですか?

A. 基本的に、痛みが許容範囲であれば歩行は推奨されます。完全に歩行を避けると筋力低下や関節拘縮が進みやすくなるためです。ただし、長時間歩くと痛みが増す場合は、分割歩行(途中で休憩を入れる)や杖の活用で負荷を調整することが大切です。レッドフラッグに該当する症状がある場合は、まず医師への相談が優先です。

Q. 動作分析はどのタイミングで行うのが効果的ですか?

A. 関節可動域や筋力などの基本的な評価を行った後に、動作分析を行うのが効果的です。「この可動域制限が歩行にどう影響しているか」「この筋力低下が階段昇降のどの局面で問題になるか」という仮説を持ったうえで動作を観察すると、的確な情報が得られやすくなります。

参考

  • 変形性股関節症の歩行分析における骨盤・体幹の代償運動パターントレンデレンブルグ徴候やデュシャンヌ歩行など、股関節疾患に特徴的な代償パターンの観察方法を参照
  • Hip osteoarthritis and disability: patient self-management strategies in daily life変形性股関節症のある方の日常生活での自己管理戦略(動作の工夫・活動調整)に関する知見を参照

このような症例の整理には、理学療法士・作業療法士向けに設計された臨床推論支援AI「クリニカルシンカー」も選択肢になります。 問診・仮説・評価方針・鑑別・リスク整理を、症例ごとに段階的に確認できます。

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