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臨床推論の考え方2026-08-10 更新

「記録にない」は「陰性」ではない — 新人PTと先輩の対話で見る「未評価」の扱い方

「まだ確認していないこと」と「確認して問題がなかったこと」を分けて記録する重要性を、架空症例と新人PT・先輩PTの対話で整理しました。

症例を見返したときに、こんな経験はありませんか。

  • どの評価を実施したか、自分でも思い出せない
  • 記録に書かれていない所見を「問題なし」と考えてしまう
  • 前回の担当者が何を確認したのか分からない
  • 症状が改善しないとき、どの仮説を見直せばよいか迷う

臨床では、限られた時間ですべての評価を実施できるとは限りません。だからこそ大切なのが、「確認した結果、所見がなかった」のか「まだ確認していない」のかを分けて記録することです。この記事では、新人PT・水野あかりと先輩PT・佐伯直人の対話を通じて、「未評価」と「陰性」の違いと、その先にある臨床推論への影響を整理します。

新人PT・水野あかり

先輩、症例の記録を見返してたんですけど、自分でも何を確認したのか、たまに分からなくなるときがあるんです。

先輩PT・佐伯直人

それ、すごく大事な気づきだよ。臨床推論のつまずきの多くは、複雑な病態を見抜けないことより、「確認していないこと」を無意識に「問題がなかったこと」として扱ってしまうことから起きるんだ。

新人PT・水野あかり

え、そんな単純なことが原因なんですか?

先輩PT・佐伯直人

単純だからこそ、気づきにくいんだよ。

なぜ混同が起きるのか

新人PT・水野あかり

どうしてそうなっちゃうんでしょう。

先輩PT・佐伯直人

限られた時間で問診・評価を進めると、全部の項目を確認しきれないことがある。でも記録するときには「特記事項なし」ってまとめちゃいがちなんだよね。

新人PT・水野あかり

あ、それ、私もよくやります…。

先輩PT・佐伯直人

その書き方だと、あとから見返した本人も、引き継いだスタッフも、「確認したうえで問題がなかった」のか「確認する時間がなかった」のか、区別できなくなる。
陰性と未確認の違い陰性確認したが所見なし→ 可能性を下げる材料になる未確認まだ確認していない→ 判断材料にせず保留する
「陰性」と「未確認」の違い

新人PT・水野あかり

たしかに、「陰性」と「未確認」って全然意味が違いますね。

先輩PT・佐伯直人

そう。ここを分けて考えるだけで、記録の精度がぐっと上がる。ただし、陰性も「完全に除外できる」という意味ではないから、そこは注意してね。評価の精度や症状の経過によっても解釈は変わる。あくまで「可能性を下げる材料」くらいに考えておくのが安全だよ。

架空症例で見る、記録の書き方

架空の症例で考えてみます(実在のケースではありません)。30代・男性。1週間前から右膝が痛み、階段を降りるときに特に痛みが強い。

評価項目実際に行ったこと良くない記録の例正しい記録の例
半月板テスト(McMurray等)実施していない陰性未評価
膝蓋大腿関節の圧痛確認して圧痛なし陰性陰性
階段降段時の疼痛問診で確認特記事項なしあり(問診で確認)
膝関節の腫脹確認していない問題なし未評価

新人PT・水野あかり

「良くない記録の例」の列、実施していない半月板テストが「陰性」になってますね…。

先輩PT・佐伯直人

そう。確認していない腫脹も「問題なし」になってる。これでは、次にこの記録を見た人が、半月板や腫脹について何も知らないまま「もう除外済みだ」と誤解してしまう。

新人PT・水野あかり

「正しい記録の例」なら、未評価の項目がひと目で分かりますね。

先輩PT・佐伯直人

そう、それでいい。

曖昧な記録が臨床推論をどう崩すか

新人PT・水野あかり

さっきの表で「未評価」を「陰性」って書いちゃうと、具体的に何がまずいんでしょう?

先輩PT・佐伯直人

一度「問題なし」と記録されると、そこから先の思考がどう流れるか、想像してみて。
記録が曖昧なときに臨床推論が崩れる流れ評価していない記録に書かれていない「問題なし」と誤解される仮説の候補から外れる必要な評価が実施されない
記録が曖昧なときに臨床推論が崩れる流れ

先輩PT・佐伯直人

評価していない項目が、記録に書かれない。書かれていないから「問題なし」と誤解される。誤解されると、その項目はいつの間にか仮説の候補から外れる。候補から外れているから、次に会ったときも必要な評価が実施されない。

新人PT・水野あかり

仮説が更新されなくなる、ということですね。

先輩PT・佐伯直人

そう。臨床推論では、早い段階で1つの見方に決め打ちしてしまうことを「早期閉鎖」と呼ぶことがある。曖昧な記録は、この早期閉鎖を後押ししてしまう。

クリニカルシンカーではどう整理するか

新人PT・水野あかり

こういう記録の混同、クリニカルシンカーを使うと防ぎやすくなったりするんですか?

先輩PT・佐伯直人

クリニカルシンカーは、症例に対して病名を決めつけるAIじゃない。問診内容や所見を整理して、評価仮説・評価方針・鑑別すべき視点を段階的に確認していくためのツールだよ。

新人PT・水野あかり

「未評価」と「陰性」の区別も意識できるんですか?

先輩PT・佐伯直人

記載されていない所見を、勝手に「陰性」として扱わない。今日話してきた考え方そのものが、仮説を整理するときの前提になっている。

新人PT・水野あかり

症例を入力しながら、自分の記録の抜けにも気づけそうですね。

先輩PT・佐伯直人

うん。次に何を確認すべきかを考える手がかりにもなるよ。

評価仮説を更新するときに起きる問題

新人PT・水野あかり

この区別が曖昧だと、具体的にどう困るんですか?

先輩PT・佐伯直人

症例が長引いて、最初の評価仮説を見直す場面を想像してみて。区別が曖昧だと、「すでに確認済みで除外した項目」を再検討の対象から外してしまって、見直しの範囲が狭くなることがある。

新人PT・水野あかり

逆に、確認済みの項目をもう一回確認しちゃうこともありますよね。「念のため」って。

先輩PT・佐伯直人

そうそう。それも時間のロスになる。

分けて記録するための工夫

新人PT・水野あかり

具体的にはどう記録すればいいんですか?

先輩PT・佐伯直人

3つだけ意識するといいよ。確認して所見がなかった項目は「陰性」として、確認した方法とあわせて記録する。時間の制約で確認できなかった項目は「未評価」として明示し、次回確認する項目として残す。そして仮説を更新するときは、「陰性」の項目だけでなく「未評価」の項目も見直しの対象に含める。

新人PT・水野あかり

「未評価」も見直しの対象に入れる、っていうのが意外と忘れがちかもしれません。

先輩PT・佐伯直人

そうなんだよ。しかもこれ、単独では機能しない。最初に可能性を絞り込みすぎないことと、セットで初めて意味を持つ。

新人PT・水野あかり

どういうことですか?

先輩PT・佐伯直人

症例情報が少ない段階で可能性を絞り込みすぎると、未確認の項目はそもそも検討リストにすら上がらない。見直す対象にもならないんだ。逆に、典型的な所見だけじゃなく見落とされやすい可能性もはじめから幅広く検討リストに含めておけば、「まだ確認していないだけ」の項目を、確認が取れるまで検討の対象として持ち続けられる。

新人PT・水野あかり

記載のない所見を「陰性」として扱わないことと、最初から選択肢を絞り込みすぎないこと。この2つがセットなんですね。

先輩PT・佐伯直人

その通り。症例を振り返る精度を支える、一対の習慣だよ。

まとめ

「未評価」と「陰性」を分けて記録することは、些細な違いに見えて、症例を振り返るときの精度を大きく左右します。特に、同じ症例を複数回にわたって担当する場合や、担当者間で引き継ぐ場合には、この区別が仮説の更新を正しく進めるための土台になります。

よくある質問

Q. 「未評価」と「陰性」を分けて記録する一番のメリットは何ですか?

A. 症例が長引いて評価仮説を見直す際に、どの項目がすでに検討済みで、どの項目がまだ確認できていないのかを正確に把握できることです。これにより、見直しの範囲が不必要に狭くなることや、逆に確認済みの項目を無駄に再確認することを防げます。

Q. 陰性であれば、その仮説は完全に除外してよいですか?

A. いいえ。陰性はあくまで可能性を下げる材料の1つで、評価の精度や症状の経過によって解釈が変わることがあります。単独の陰性結果だけで完全に除外できるとは限らない点に注意が必要です。

参考

  • 臨床推論における認知バイアス「早期閉鎖」という考え方特定の論文の引用ではなく、Croskerryらの臨床推論研究で広く知られる一般的な概念を参考にした整理です

このような症例の整理には、理学療法士・作業療法士向けに設計された臨床推論支援AI「クリニカルシンカー」も選択肢になります。 問診・仮説・評価方針・鑑別・リスク整理を、症例ごとに段階的に確認できます。

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